人とアイデアの基本特性とその周辺に絡む事項

人は皆、思いついたアイデアを否定されると、
そのアイデアはひっこんでしまいます。
これはなぜなんでしょうか。

イデアキラー行為を
だれでもしうる可能性があります。
状況が違えばそれは非常に有効な行為で
使うべきタイミングが
適切であるか、ないか、なようです。

いいかえると、

人があつまってアイデアを出して
「新しい」を作ろうとするときに、
イデアを出す人、アイデアを伸ばす人が、
足し算になるにはどうすればいいでしょうか。
(打ち消し合い(引き算)にならないようにするにはどうすればいいでしょうか)



「人間の基本的性質」を確認してみます。


【1】人間は急激な変化を本能的に嫌う

既存のやり方を、大きく変えると、読めないリスクが生じます。それが生存を脅かす可能性を想起させます(イマジネーションの誤用)。

「変化の恐怖」がないのは、経験(良い経験、悪い経験)がない人と、道を極めた人(その分野の多様な可能性を熟知した人)だけです。

よく、地域変革・組織変革の成功ケースを学ぶと「この地域には何もなかった。危機感だけがあった」という声が共通してきかれます。危機感は「このまま行けば、悪くなっていく」という変化の恐怖にさらされている状態です。このときは変化を伴う選択肢が受け入れやすい状態たいです。何もしない、という選択肢も「変化をもたらす」という状況ですから。

【2】人間は同時に複数の考えを持つことはできない

短い時間、たとえば3秒などの時間で、2つの考えを同時にはできません。長い時間で複数のことを考えるのは、時間分割して、最初の10分はA案、次はB案、として考えています。もっと頻繁に切り替えて考えている場合も「切り替えて」いるのであって、同時に考えているのではありません。

ただ、例外的に、同時に複数の考えを持つこともあります。しかしこれは論理的には考えていません。(時折新しいアイデアはそういう融合から出てくることもあるので一概にNGとはいえませんが、論理的思考という意味では、NGです)。人間が頭の中で思い悩んで決めかねている時、この状態は起こっていることがあります。

【3】すぐ忘れる

閃いたこと、あるいは、だれかのアイデアに「こんな懸念点がある」ということを気がついたこと。これらはいずれも、光のたゆたう帯のように、短期的記憶の中に生まれていす。閃いたことは、そのあとに何を話しかけられると忘れてしまいます。「なにか思いついたんだけど・・・」という感触だけが残ります。懸念点を思いついた時も同じです。すぐに出さないと「あれ、さっき、気になる点があったんだけど・・・」と。

これを忘れないようにするには、繰り返し繰り返し思い出す(頭の中でつぶやく)ことをします。形が溶けてなくなりそうな概念空間でのひらめきを繰り返し意識の光を当ててやることで、輪郭がぼけていくのを抑制します。しかし、この作業をしていると、新しくモノを考える力は低下しています。「覚えておく」ことと「新しいことを考えつく」こととは、同じ頭の領域(短期的記憶の領域、かもしれません)を使っているようです。

覚えておくことがいっぱいとき、人は閃きにくい。人間が忘れっぽいのは、人間らしさ、でもあるようです。オズボーンの著書によれば、動物は人間よりずっと詳細な記憶を長い時間保つそうです。人間が創造的思考をもったことは、頭のある領域を「忘れていくことで閃く余地をあけている」からかもしれません。

以上をまとめます。

人間の基本的特性
・変化を嫌う
・同時に複数の考えを持つことはできない
・すぐ忘れる

この3つを元に、アイデアがなぜ批判されるとひっこんでしまうのか、短く考えてみます。

まず、アイデアを聞いた人は、その考えの上に立ってモノを考えないといけません。同時に複数の考えを持つことはできないので、安心できる現在状況から、そのアイデアのうたう新状態にうつるわけです。そのアイデアが変化を大きくもたらすものであれば、その状況に立つことは変化を嫌う性質がネガティブな気持ちを想起させるでしょう、とくに、リスクポイントの発見をさせるでしょう。そして、目に見えるリスクを思いつく限り述べます。なぜすぐにいうかといえば、それは、忘れてしまいそうになるからです。言わないと見つけたリスクを忘れてしまう。その衝動にかられて、辛抱強くない人は、見つけたリスクをしゃべります。わすれるのはアイデアの発案者も同じこと。短期的記憶のなかにあるアイデアを紡ぎだす途中で、そのアイデアの懸念点を出されてしまうと、そこについて考えます。同時には考えられないので、懸念点を考えてしまう。そして戻ってきたときには、もともとのアイデアが何であったのか、語っていなかった部分はもう、忘れています。懸念点をすぐに答えて戻ってくることができる場合を除いて、これが起きています。






次に、アイデアの基本的特性について考えてみます。

【1】新しいアイデアは、既存の要素に変更を求める

新しいアイデアを実行するには
既存の要素を何かしら一つ(以上)変更しなくてなりません

何一つ変更する必要の無いものは
”今まで通り”のやり方を別の表現にしただけです。

【2】新しいアイデアは、どうやって実現したらいいのかわからない

「こうであったらいいのにな」が、まずひらめきます。
次に「それをどうやって実現すればいいのか」を考えます。
しかし、新しいアイデアは、実現方法が見つからないことが多いです。

すぐに実現方法が見つかるのは、おとなしいアイデアの場合だけです。

【3】思いついた時点のアイデアは「未成熟なアイデア

ひらめいたアイデアは9つの試練を受けます。
「こうだったらいいのにな」について、
「それをどうやって実現すればいいのか」(実現方法)が
1つ目の試練です。
2つ目〜9つ目の試練は
「影響する要素(6W3Hのうち8つ)は、リスクがないのか」
です。

未成熟なアイデアが、実行可能なアイデアと評価されるのは、
この9つの問に答えられた場合だけです。

(補足:一般に、出される懸念点は「思いつきの懸念点」です。これは批判する人がさも物知りのようになっていますが、注意深く聞いてみると、批判者も「思いつきでリスクを述べて」います。ビジネスアイデアであれば、懸念すべき9項目がありますが、それをはじから論理的にチェックして、必要なリスク点を述べている人はごくまれです。多くの人は、見渡して最初にみつけたリスク点を述べています。思いつきでしゃべるな、という人も批判では思いつきでしゃべっています。)



以上をまとめてみます。

イデアの基本的特性
・新しいアイデアは、既存の要素に変更を求める
・新しいアイデアは、どうやって実現したらいいのかわからない
・思いついた時点のアイデアは「未成熟なアイデア

この3つを元に、アイデアがなぜ批判されるとひっこんでしまうのか、短く考えてみます。

イデアを9つの部位をもった「ゲームの世界の仮想動物」だと仮に考えます。(9と言っているのは絶対ではありません。ビジネスの9要素、を前提にしゃべっていますが、この限りではないとおもいます)

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黒い四角は部位。白い四角は部位同士のつながり。という構造のありと蝶を足したような動物です。

たとえば、中央の部位を変えると、周辺の部位4つはすべてかえないといけません。下手をしたらすべてを変えないといけないかもしれません。

ある部位がこんな感じの効能のものしたら?というアイデアを出すとき、それはどうやって実現するのかを考えないといけません。つまり新しい部位としてどういう構造をもてばそれの効能が実現するのかを。

そして、連結している残りのパーツ(最低1つ、最多8つ)がどうなれば整合性がとれるのかを、考えてないといけません。

通常は、変更する部位は、思いついても残りの部位はキリがかかったように、ぼんやりとして、広がった曖昧な輪郭を持ちます。それは、選びえるパラメータを意味します。しかし、どの輪郭線をえらんでもいいわけじゃなく、すべてを任意に選ぶと整合性がたもてなくなります。なので、ぼやけているけれども、お互いに関係している、輪郭です。

イデアに、動物の体という具体像を与えてみると、アイデアがどういう状態で最初に誕生しているのかを理解しやすくなると思います。








さて、いよいよ本題です。
なぜアイデアは批判に弱いのか。
その構造から示唆を探します。


イデアは、誕生したては、9つのうちの1つが、しかもその理想状態だけが、現れます。一方で、人間は基本的特性があり、変化が不安であり、一度に一つのことしか考えられず、思いついたことを忘れっぽくもある。

新しい可能性が、未知の、繊細で曖昧な複数の輪郭線をもった、ひどく不完全な存在であるのに対して、人間は、既存の、ただ一つの明確な輪郭をもった、安心できる具体的存在の上に立っています。

性質の違う「概念」の存在と、「実体」の存在。

この2つを同じ扱いで考えてしまうと、性質上、弱い方(アイデア)がすぐにダメになります。なので、十分に育ててから、同じ土俵に乗せる必要があります。多くの創造系の先人が発言するこの発言には、水面下に上記のようなものがあるのだと思います。

最後に、考えたいのは、「いつ、反転させるのか」ということです。

反転、と表現しました。反転というのは「概念」から「実体」に転換する、という意味で。

これがわかると「批判や懸念事項をいつ出すべきか」のコツがわかります。私を含め、多くの人にはそれはわかりません。私も創造活動において、判断に迷うことが結構あります。

私の現在のお勧めはこうです。

「新しい部位を確定させる、しかも十分魅力的に引き出して。」

ここまでは、概念の領域。

ここから、残りの8部位との整合性を懸念するのが、実体の領域。

やわらかいアイデアを、強いくさびでその存在を頭に留め打つ。それぐらいまで実体化するには「こうだったらいいのにな」と「具体的にこうやって実現しよう」までをセットで持つことが重要。ここまで来ると、批判のある領域に持っていくことで、実効性の高いものができます。(逆に、8部位を、概念の領域で決めると、決めすぎる、つまり、現実の世界で、相容れない構成になってしまいがちです)

以上が、人とアイデアの基本特性とその周辺に絡む事項でした。

この辺については、さらに、創造工学の研究の中で整理して、シンプルにしてみたいと思います。アイデアを出すときのガイドラインとしてブレインストーミングがありますが、それがどうして正しいのか、局面ごとに最適な調整をうける「特殊ブレインストーミング」が存在するとしたらそれはなにか。そういったことへ発展させたいと思います。